※スド出身。父親は石細工士。手先が不器用で家業を継ぐ気にならず家出。長男。弟がひとり。母親を幼児のころ亡くす。気が強くて短気。鼻息だけは荒いがけんかは弱い。しかし、ときおり豚力というバカ力を出すときもある。手足が短いのになぜか走りと泳ぎは上手。
子ブタが泣きべそをかきながら、湖のほとりをトボトボと歩いています。しかも、片足は普通には歩けないようです。いったいどうしたのでしょう? ときおりだれかの名を叫んでいるようです。だれを捜しているのでしょうか?
湖の沖の方から、ボールのような物体が水しぶきを高く上げ猛スピードで子ブタに近づいてきました。すぐ近くでザブンと潜ったかと思うと、いきなりジャンプして子ブタの前に降り立ちました。
「ブーフーウー、ひゃあー雷魚のボスをとうとうつかまえたぜ! おい見ろよ、トンキチ」
子ブタのトンキチは急に大声で泣き出します。
「トンペイにいちゃーん、ブフ、ブヒ・・」
しゃくりあげて声にならないトンキチの姿を見て、トンペイは察しがつきました。トンキチの汚れた鼻を拭いてやりながら、鼻息が荒くなっていきます。
「いつものヤツらだな。よーし、にいちゃんにまかせておけ。 行くぞトンキチ!」
スドの街はずれまで来ると、トンペイはひときわ大きな声を張りあげました。わずか40軒あまりの小さな街です、だれもがその大きな声に気づきました。そこに、耳をピンと逆立てトンペイの声に敏感に反応した者たちがいます。そうです、彼らこそトンキチをいじめた張本人です。
「おい、やっとお見えになったらしいぜ。こりないヤツだよなあ、へっへっへ」
長い口先のキバをむき出して笑うのは、キツネのペンタです。そばに仲間がふたり、タヌキのゴンとイタチのスーリも、うすら笑いを浮かべています。トンペイには直接悪さをすることはなく、生まれつき足に障害を持つ弟のトンキチをいつもいじめるのです。スドの街みんなからも好かれていません。
ペンタたちはトンペイのところにやってきました。
「おれたちを呼んだか? あん?」
ペンタたちは、前にもトンペイをやっつけたことがあるので、いばっています。
「ブヒ、またいじめてくれたようだな。今度こそしょうちしないぞ!」
「また痛い目にあいたいのかよお」
ひとりでは何も言えないゴンが、ペンタの後ろから顔をのぞかせて言います。
「おれたちの仲間になった方が身のためだぜ」
スーリもひとりのときとは大違いで、大きな態度になっています。
「ふざけるな! おいらはユイガドクソン。だれともつるんだりしねえ。この前のときのようにうまくいくとは思うなよ。きょうのおいらは、ブヒ、強いぜ!」
「そうかい、じゃあかわいがってやるか、なあ、みんな」
そう言うと、ペンタは身がまえました。せえの、で一斉にとびかかったとたん、
「ひーーーっ、痛たたた」
ペンタがとつぜん悲鳴をあげました。
「どうだ! おいらがつかまえた雷魚のボスだぜ。おまえの鼻をくいちぎるぞ!」
ペンタの鼻にぶら下がった大きな雷魚を見て、ゴンもスーリも腰を抜かしてしまいます。当のペンタは、雷魚を離そうと引っぱれば引っぱるほど鼻がちぎれそうになり、それは痛くて涙をポロポロ流しています。
「ほうら、おいらの言ったとおりだろ。ざまあみろ! もう二度と弟に悪さをするなよ」
ペンタたちは、ほうほうの体で逃げ帰って行きました。
トンペイはいい気分で家に帰ると、父親のトンゾウが待ちかまえていました。腕組みをしてトンペイをにらみつけます。
「いままでどこでサボっていたんだ、トンペイ!」
「トンキチがいじめられたんで、仕返ししてきただけだよ」
「ウソつけ! 何時間もいなかったじゃないか。どうせ、湖で泳いでたんだろ?」
気は強いけれどウソのつけないトンペイは、ことばを返せません。
「父さんはな、おまえをいっぱしの石工にしなければ、死んだ母さんにもうしわけないんだ。母さんは、トンキチの世話ばかりになってしまい、おまえにさびしい思いをさせたと死ぬまぎわに言っていたんだ」
「よせやい、いつもいつも母さんのこと持ち出して。おいらは、不器用なんだよ。だいたい、こんな手で細かい細工をやれってのがムリなんだよ」
「父さんは、それでもがんばって石工になれたんだぞ。おまえにできないわけはない」
「そんなの父さんの勝手じゃないか。おいらには、ほかに夢があるんだ」
「何だ、その夢ってのは?」
「おいら、山で金を掘りたいんだ。そして大金持ちになって、トンキチの足を治して父さんにも楽させてあげたいんだ。つるはしだったら、不器用なおいらにも使えるからな」
「この、ブヒ、ばかもの! 楽して金持ちになんかなれるもんか。そんなに石工の仕事がいやなら、とっとと出て行け! なまけものは、家に必要ない! どこへでも行ってしまえ!」
短気な性格は父親に似たのでしょうか、トンペイは出て行けと言われていっぺんに頭に血がのぼってしまいました。
「わかったよ! 出て行きゃいいんだろ、くそっ、二度と帰るもんかこんな家」
そう言うと、プイッと外に出てしまいました。弟のトンキチがあわてておにいちゃんを追いかけます。
「おにいちゃん、おにいちゃんってば。ウソだよね、どこにも行かないよね。おにいちゃんがいなくなったら、ぼく、またいじめられちゃうよお、え〜ん」
泣きじゃくるトンキチを振り返り、トンペイは静かに言いました。
「いいかトンキチ、おまえももうすぐ10歳だ。おまえはおいらと違って手先が器用だから、父さんを手伝って石工になれ。足が悪くても石工なら問題ない。おいらは、金を掘り当てて、金持ちになって帰ってくるから、それまで父さんを頼んだぞ」
素直なトンキチは、言われたことにうなずくばかりでした。
「あ、そうそう、いじめられそうになったらな、にいちゃんが雷魚を持ってくるぞ、と言っておどかしてやれ。ま、きょうのでこりたはずだから、心配するな。じゃあな、ちょっとかせいでくるからな、早く家に帰れよ」
そう言うと、トンペイは勢いよく走り出しました。アッという間に街はずれを通り過ぎ、姿がみえなくなりました。
ワンダーランドの西に広大な砂漠があります。なんでもその昔、大きな湖だったと言い伝えられています。いまは木一本も生えない砂の平地。それでも中心にはオアシスがあり、金探しの人々の宿場街としてにぎわっています。この街の名は「ウエスタカン」。山での一攫千金をあきらめた人も、オアシスの水底をすくって、わずかばかりの砂金を手に盛り場に集まってくるのです。盛り場の酒場は1軒しかありません。老いも若きも、みんな金の情報を得るために、その店に集まってくるのです。
さて、トンペイはというと、砂漠に入って半日が過ぎようとしていました。街があると聞いてはいたのですが、行けども行けども砂ばかりの世界です。朝から歩き続けて、とうとう日が暮れようとしています。トンペイは山のふもとに適当な洞穴でもないかと探しているうちに、とうとう闇に包まれてしまいました。しかたなく、大きな岩陰にかくれるようにうずくまり朝を迎えることにしました。そしていつの間にかウトウトと眠りこんでしまいました。
物音がしてトンペイはドキッとしました。目を開けると岩の向こう側で話し声が聞こえます。どうやら2,3人の男が何やらヒソヒソと話し込んでいます。話の中身はわかりませんが、どうやら街に帰ろうとしているようです。しばらくすると、松明を持った男が真っ暗な砂漠に向かって歩き出しました。つづいて2人の男が袋を背負って1列になって歩いていきます。トンペイは眠い目をこすりながらも、男たちの後を追うことにしました。松明のあかりは少々離れていてもよく見えるので、男たちに気づかれることはなさそうです。このあたりには山賊もいると聞いていたので、トンペイは前をゆく男たちを怪しいと思っているのです。
どのくらい歩いたでしょうか、東の山脈の空が白々としてきました。と、男たちの行く手にぼんやりと家らしきものが見えるではありませんか。蜃気楼ではありません、まだ明けやらぬ早朝ですから。どっと疲れが押し寄せてきて、トンペイはその場でへたりこんでしまいました。男たちは消えるように街の中に吸い込まれていきました。
砂漠の旅で疲れ果てたトンペイは、オアシスの水で腹いっぱいにすると、人通りの多い盛り場をあてもなく歩いていました。すると、3人の男が「両替所」の看板のある家から出てきて、小躍りしながら酒場に入っていくのが見えました。袋は持っていませんが、おそらく例の3人です。トンペイは彼らの後から酒場に入っていこうとしましたが、後ろから現れたクマの大男に首根っこをつかまれ注意されました。
「ここは子供の入るところじゃないぞ! 早く家に帰りな」
トンペイは舌打ちして外に出ました。でも中の様子が知りたくてたまりません。
酒場は、朝早いというのにもうにぎわっています。朝まで飲んだくれて寝過ごした者もいますが、ほとんどはこれから夢を掘り当てようと準備してきた人々です。3人の男はカウンターにズカズカと大またで近寄ると、ひとりが景気よく言いました。
「やあマスター、ボトルごとくれ。もちろんひとり1本だ。それから、しょぼくれたみんなに一杯出してくれや、オレさまのおごりだ!」
ガヤガヤと話をしていた客たちは一斉に3人の男を見ます。ポケットから大きな金鉱石の塊をカウンターに置いたのを見て、周りに群がってきました。どこで金を掘り当てたのか情報を手に入れたいのです。もちろん、そんな大事な情報をもらすわけはありません。男たちは用心深く夜になってから山を離れ、だれにも気づかれないように街までやってきたのですから。そう、トンペイを除いては・・・。3人の男は、酒ビンを片手に陽気に歌い踊り、まわりの客も拍子をとって大はしゃぎしています。
トンペイは、店の外から様子をうかがっていました。
「やれやれ、この街ときたら、朝から酒を飲んで騒ぐおとなばかりなんだな。さっきの片目の大男といい、うさんくさいヤツらばかりだぜ」
それにしても、とトンペイはたいへんなことに気づいて胸がドキドキしてきました。そうです、3人の男たちは山賊ではなく、きっと金鉱脈を掘り当てたに違いありません。その鉱脈のありかを知っているのは、あの3人の男のほかには自分だけなのです。
「シメた! これで父さんやトンキチに楽をさせてやれるぞい。ブヒーッ」
旅の疲れも空腹もどこへやら、トンペイは両替所の裏に捨てられていたボロの麻袋を手に入れると、一目散に砂漠に飛び出していきました。幸い、3人の男たちは昼間に金を採りにいくことはないはずです。人目のない夜に出かけるはずです。トンペイは夜になる前に金を採り、街の両替所でお金に替え、そのままスドの家に帰るつもりでした。
大きな岩を目印に、なんとか昨日の場所を探し当てると、山際に小さな洞穴を見つけました。入り口を岩でふさいでありましたが、どうやら動かせそうです。トンペイは鼻息も荒く渾身の力をこめて岩を動かすと、丸いからだをむりやりすき間に押し込みました。やっとのことで穴に滑り込むと、中は意外に広いことにホッとしました。うっすらと明るんだ奥へ進むと、ひときわ広い場所に出ました。トンペイは目を凝らして周囲を見まわすと、なんとキラキラと黄金色に光る岩肌があることに小躍りしました。
「やったぜい! ブヒーーーッ」
例の男たちの物でしょう、足元に置いてあった小型のツルハシを使い、袋いっぱいの金鉱石を採りました。麻袋はたいそうな重さですが、豚力をふりしぼってトンペイはかつぎあげます。洞穴のすき間から麻袋を引き出そうとしたとき、擦り切れたところから鉱石がひとつ落ちたことにトンペイは気がつきませんでした。陽は山の裏側に落ちていて、空はまだ明るいものの砂漠はすでに影におおわれていました。トンペイは無我夢中で歩き出しました。まっすぐ街に向かうのは危険です。男たちに出くわすかもしれません。山は誰の物でもないのですが、さすがに人が見つけた場所でだまって金を採ったことには気が引けます。トンペイは遠回りして街に向かうことにしました。
ウエスタカンの街に辿りついたのは、とっぷりと日が暮れてからでした。両替所はもちろん店を閉じていました。トンペイはオアシスでのどと腹をうるおし、ほとりで夜を明かしました。夢の中で、ふるさとの湖の魚を食べようとした、その時でした。
背中に痛みを感じて目をさますと、朝陽を背負ってだれかが立っています。まぶしそうな目で男の顔をよく見ると、なんと例の男たちのひとりではないですか。驚いて逃げようとすると、後ろにいた二人の男たちに取り押さえられてしまいました。3人の男たちは夜明け前に出かけ、洞穴の入り口に落ちていた鉱石を見つけ不信に思い、急いで街に引き返してきたのでした。
「よお、ボウズ。この金はどこで採ったんだ?」
帽子と長い髪で正体がわからなかった男は、山犬のキバをむき出してそう尋ねました。トンペイはウソをつくのはいやなので、正直に答えてしまいました。
「大きな岩の陰の洞穴だよ。なんだよ、山はおまえらだけの物じゃねえだろ?」
「ほう、おれたちの物じゃないってことは、おれたちが掘った場所を知ってるってわけかい?」
トンペイはハッとしましたが、もう後の祭りです。こうなれば居直るしかありません。
「知っていようがいまいが、ブヒッ、採った物はそいつの物に決まってらい!」
「そいつはどうかな? この街の掟はな、初めに見つけた者の許しがなければ、だまって採るのは吊るし首なんだぜ。許しを得た者が採っても、そのうちの8割は見つけた者に払う決まりだ」
「な、なんだよ、そんな掟、おいらは知らねえぞ。だったら8割払えばいいんだろ」
「ふざけんな! 誰が採っていいと許したんだあ? ボウズだからって容赦はしねえぞ、吊るし首にしてやる!」
トンペイは逃げようともがきますが、3人の大の男に押さえつけられて身動きがとれません。空腹で力が入らないのです。悔し涙がこみあげてきて、トンキチや父さんのことが目に浮かびました。と、そこへ何者かが近づいてくる靴が見えました。
「おい、おまえたち、子供相手にむちゃはやめるンガー」
その声に聞き覚えがあります。そう、酒場の入り口で怒られたときの声です。どうやらあの時のクマ男かもしれません。山犬の連中は、その男の出現に気を取られたようです。トンペイを押さえていた力が緩みました。その一瞬のスキに、トンペイは男たちの手を振りきって一目散に走り出しました。そして思いっきりジャンプして湖に飛び込みます。泳ぎの得意なトンペイは、あっという間に対岸まで泳ぎ着き、そのまま砂漠を北に向かい走り去りました。
「吊るし首なんてごめんだ。二度と来るもんか、こんな街、ちくしょう、ブヒブヒッ」
よくもこんな体力が残っていたかと思えるほど、がむしゃらに走り逃げていくのでした。
砂漠を抜け森に入ると、木の実や草で飢えをしのぐことができました。トンペイはスドには帰れないと思い、北の街ノルターニャに行くつもりです。このワンダーランド一の大きな街であると聞いていたので、何か仕事を見つけ、しばらくは先行きのことをジックリ考えたいのでした。幸い、ポケットには小さな金鉱石が残っていました。町で売れば2,3日は飢えをしのげるでしょう。
(・・・つづく)
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